部屋は日々の暮らしそのもの。
足跡の一つとして、部屋から「その人らしさ」を伝えるためのコラムです。
第1回目のお部屋訪問は、フードバンクのレジェンド(長老)坪一さんのお部屋。
部屋には生活を始めた時に「あうん」で購入した家電がすっきり整理されて置かれ、木製のポールハンガーにはいくつかの帽子が掛けられている。中でもお気に入りは「寅さん」の帽子だ。
「寅さん好きなんだよね。これ柴又で売ってるんだよ」と教えてくれた。
ベッド脇に置いてある腕を鍛えるための鉄アレイは健康維持のためだと言って上下させて見せた。
この手が銅山の岩を砕いてきたのだ。
部屋の隅には濃縮した酸素を供給するための機器がある。
外出の際、ボンベを持ち歩いている坪一さんは、暑い稲刈りの日も、ボンベを背負って仲間と田んぼに入り活動をしていた。
最後に「じん肺手帳」を見せていただいた。
戦後の復興と経済成長をなぞるように、隧道工事従事の記載が続き、最後は足尾銅山で終わっていた。
大きな建造物には設計者の名が刻まれ、歴史に残るけれど、現場で具体的に造り・働く人の存在は、どこにも明記されず時間が流れていく。
昔、カメラが趣味だったけれど、部屋を出た際に全て置いてきてしまったのだと語る坪一さん。
今、部屋には「フードバンク」の仲間と一緒に映っている写真が何枚も飾られている。それはまるで家族写真のようだ。
文・山﨑 まどか